スペシャルインタビュー:
木魚職人・加藤寿和さん
(取材・写真:内山洋樹/2019.9.3)
※JPC会報No.162より加筆して転載
実家に戻り木魚製造を始める。
K: それで色々な事を乗り越えて、木魚製造のご実家に帰ってこられたんですね。
さあ、いよいよ実際の製作ですよね。初めはどんなことから始めるんですか?
加藤:初めはですね、中彫りから始めました。外側の仕上げに関わる作業は、間違えたら修正出来ないじゃないですか。中彫りはあとからいくらでも修正出来るので、まずは延々そればかりでしたね。何年もそればっかり。
K:何年くらい?
加藤:何年やってたのかなあ… 結局何年間これやらせて、次はこれやらせて、みたいなことは(父親は)何も考えてなかったんです。多分。とにかく中彫りをメインにやらせて、手が欲しくなったら別の作業手伝わせて、みたいな事を何年もやっているうちに、だんだん色々な事を部分的に習得していったって感じですかね。
K:難しい技術に取り組み始めたのは?
加藤:う~ん… 僕らの世代って、「指示待ち人間」じゃないですけど、言われるまではやっちゃいけないのかな?っていう気質もあったんで、なるべく手を出さないようにしてたんですよ。そしたら(父親が)「何でお前はいつまでたっても何もやらないんだ」って怒られるし(笑)
K:理不尽ですね(笑)
加藤:ははは。まあ、昔はそんな感じだったんですよ。ムダに遠慮してたと思いますね。
K:では工程を順に追って見ていきたいんですが… 材料は楠(くすのき)だけですか?
加藤:はい。たまに高級材の「桑の木」を使う事もあります。
K:楠って、よく神社やお寺に植えてありますよね。結構な大樹に育って「ご神木」として祀られているものも見かけます。
加藤:そうですよね。何故そういう場所に植えられているのか詳しくは知りませんが、楠って成長が早いんですよ。そして冬場でも葉が落ちない「常緑樹」なんです。いつも青々していて、春先に葉は生え変わるんですが、いっぺんに落ちたりしない。そういうところが好まれているのかもしれませんね。
K:原木は先ほど拝見しましたが、丸太の状態で置いてありましたね。
加藤:はい。丸太で買って、まず3年以上は寝かせます。そのくらい寝かさないと狂いが出ちゃうので。
K:3年もかかるんですね。そうやって十分に乾燥が進んだ楠を、次はどうしますか?
加藤:「木取り」ですね。サイズに応じて木材を切断し、粗方の形状に切り出す作業です。この形にする際に、間口の切り込みも入れてしまいます。
そして次に、外形を丸めていく作業です。始めは角を落としていく作業ですね。角をどんどんノミで落としていくと面がどんどん細かくなっていって、次第に丸みを帯びてきます。
K:先に中を彫るんじゃないんですね。
加藤:基本的な外形がある程度出来ていないと中を彫れないんですよ。外形がカクカクした状態では「勘」がわかんないんで。だから先にある程度までしっかり丸めます。敢えて名をつけるとしたら「整形」ということになりますかね。で、このあと中を刳る作業、「中彫り」をします。この言い方は職人によって違うかもしれませんが。
K:中はどのくらい彫るんですか?こういう形状だと、厚みをマイクロメーターで計るのも困難ですよね。
加藤:正直言って、「勘」です。具体的には、木魚の外側に手を当てたまま内部を覗くと、何となく厚みの感じがわかるんです。それで、木魚のサイズにもよりますが、大体1~2センチくらいになるように調整しているつもりです。実際には、それよりもう少し厚いとは思いますが。
そしてこの状態でしばらく自然乾燥させます。大きさにもよりますが、小さい物で1年間、大きい物になると5年とか10年とかかかります。ここに置いてあるのが2尺2寸ですが、これも10年ものです。やはり大きさによって乾燥させる期間はまちまちですね。
K:この状態でまた更にそんなに長く寝かせるんですか!隣の小部屋にたくさん吊るしてあったのはその自然乾燥中の「中彫り」されたものだったんですね。
加藤:そうです。
K:その乾燥具合の見極めですが、まだ乾燥が十分じゃない物を使ったりすると、やっぱり割れたりするんですか?
加藤:明らかにじとっとするくらいのものじゃない限り、芯までヒビが入っちゃうような事はまず無いんですが、飾り彫りの細かい彫刻にピシピシッとヒビが入る事はあるんですよね。そうなるとクレームの元になっちゃうので。楠は…ひびが入るんですよ…(苦笑)
余談ですが、先日珍しい物が届きまして。中国とか韓国製と思われるんですが、木魚の元になったと言われる「魚板」だったんですが、あちこちにひびが入ってるもので、そのヒビを修理してくれって言う依頼でした。同じ「楠」で出来たものだったので、細かいヒビに丁寧に埋木をして直して行くんですが…3日ぐらいかかりましたね。そんな修理が出来るのも、今となっては欄間職人かウチか、くらいでしょう。