スペシャル対談:

「打楽器奏者と椅子」

(取材・写真:内山洋樹/2014.8.24)

クラシック打楽器界で日頃あまり語られることの無い「椅子」。しかしその世界は意外に深く、奏者によって、曲やシチュエーションによって、実に様々なコダワリがあります。また、プロフェッショナルの現場では、椅子は打楽器奏者によってふんだんに使用され、大活躍しています。今回は2014年8月のお盆明け、ちょうどシエナ・ウインド・オーケストラが夏のツアー真っ盛りの最中に、打楽器界屈指のご意見番のお二人、愛知県立芸術大学・准教授の深町浩司さん(同ツアーに参加)、そしてシエナ・ウインド・オーケストラのティンパニ奏者、荻原松美さん(実はこのお2人、ともに長野県東御市のご出身!)にその奥深い世界について対談していただきました。

ティンパニと椅子について

コマキ通商(以下K): 本日はお忙しい所お集まりいただきましてありがとうございます。まずはお2人のティンパニ演奏時の椅子の使い方について、教えていただけますか?

荻原: ティンパニの演奏時は、私は比較的高めに設定します。そして、実際にストロークする際は、ほとんど立っているか、半立ち状態ですね。マレットがヘッドに当たる瞬間に足を踏ん張って、体重を乗せることもあるんです。足は常に床に付いていて、しっかり踏ん張っていたり、椅子に体重をかけてる時は楽にしていたり。隣の楽器に移動する時は素早く移動したいので、その時は椅子に体重乗せてクルッと移動します。

高めの座面位置ですが、足はしっかり床に付けた、荻原さんのプレイ・ポジション。お尻はほぼ「引っ掛けているくらい」。

K: 素早く移動して、すぐに叩ける体勢を作れるという「どっちにも行ける微妙なポジション」を常に作っているという感じでしょうか?

荻原: そうですね。そう言う感じです。 以前からあった、足乗せが前にせり出してるモデルの椅子って、そういう素早いアクションをする際には私にはとても邪魔になるんです。ここ数年日本に流通している「しっかりした」椅子も同じで、脚部の「ヒトデ」がかなり出っ張っててやりにくい。その点このKK-G1はとてもすっきりしてて理想的ですね。 座面の生地素材がもうちょっと滑らないと嬉しいかも…

深町: 別メーカーのですが、この座マットの側面にあたる部分が合成皮革になっているのがありますね。この部分に腿の下側が引っかかって、辛うじて滑らなくなってるという。今回シエナのツアーでお借りした椅子はサドル型だったんだけど、あれもそんな感じ。側面だけ合皮で、座面はあのベルベッド地みたいなやつ。滑らない素材を突き詰めればそりゃ皮とかに行きつくんだろうけど。車のシートとか…

荻原: はっ、皮か… いいですね(笑)

深町: あ、本皮?そりゃ高く付くんじゃ…(笑)レカロの椅子ってあるじゃない?レカロの椅子だったらボタン押してウィ〜ンと高さが変るし、フルフラットにもなる(笑)

荻原: はははは、それいいな(笑)

深町: ワーグナーなんかで長い休みの時にフルフラットにできるんだよ(爆笑)ま、冗談はさておき(笑)

K: 今回は初回ロットなので、次回からはまた色々盛り込めたらとは思っています。

荻原: 希望としては、これでサドル型も選べるとか、ならないですか?(笑)

深町: この直径内でサドルにすると結構ちっちゃくなるよね?

荻原: まあ、ギリギリかな?丸型も悪くないんですけどね。前面部分がナナメになってて、滑り台みたいになってるの有りますよね?私のようなタイプだとあれはもう滑っちゃってダメなんです。

K: 高さの話に戻りますが、高さの設定って言うのはやはり腕のポジションによって、ということでしょうか?

荻原: まあそうですね。そういうことになりますかね…あとは身体の使い方と言うか。どうしても下半身の力を使いたいんで。特に大きな音の場合は。

K: ありがとうございました。では深町さんお願いします。

深町: 僕も高さはもちろん楽器によって決めています。その方法というのがあって、まず背筋を伸ばした状態で、腕を直角に曲げます。腕からマレットまでを水平に保ち、マレットのヘッドからティンパニの打面が13〜15cmになるように、椅子の高さを決めます。で、高さを決めたら、背筋はリラックスさせてしまいます(少し猫背に)。この高さがちょうどいい。

椅子の高さを決めるときは背筋を伸ばし、腕は直角に。

高さを決めたら、背筋の緊張は解き、楽な姿勢で。