スペシャル対談:
「打楽器奏者と椅子」
(取材・写真:内山洋樹/2014.8.24)
打楽器奏者は休みが多い
K: ちなみにこの椅子を企画したのはですね、弊社にはロングセラーの「KK-B1」という椅子がありまして、これが最近まで、もう25年以上もの間販売してきたんですが、一昨年くらいにこれを作っておられた職人さんが廃業されまして、止めざるを得なくなったんです。
深町: あー、これね。上のマットを上から取って、下から嵌めるとすごくコンパクトになって、あれは良かったんだよね。
荻原: そうそうそう。
深町: 大体個人でティンパニ持ってるような人はみんなこれだよね。
K: (古いカタログを出し)このカタログは1994年ですが、この当時は23,000円でしたが、この後どんどん値上がりして行きまして、最終的には30,000円でした。
深町: あとこのB1のね、慌てて高さ調節の溝と溝の間でネジ締めちゃって、本番の最中にね、「ガタン!」で落ちれば良いんだけど、「ガリガリガッチャン!!」って落ちちゃうの、あったよね。
荻原: 良くある。(笑)
K: そういうわけで、このB1の良さを継承しながら、改良された椅子を作りたいね、ということで開発が始まったんです。
深町: そうするともうたった2千円の差額でガス圧になって、メッシュの座面になって、高低差もここまでつくんだったら絶対良いよね、これ。
そうそう、あとは背もたれね。これは演奏中は要らないっちゃ要らないんだけど、休む時にはあった方が楽で良いね。
荻原: 何100小節も休むわけですからね。私は休む時はもう一番下まで座面下げて、足乗せや床にべったり足付けて休みます。
深町: 両足付けて半掛けだとどうしても「戦闘態勢」じゃ無いけど、そういう雰囲気になっちゃう。例えばすごく静かな楽章だと、そういう姿勢は取らずに、椅子にも深く腰掛けてじっとしているべきだと思うんだよね。余計な気を発散しないようにと言うか。この椅子だとその状況を確保できますね。「そそう」をしないでじっとしていられる(笑)
荻原: ティンパニに限らず、打楽器用の椅子としては背もたれはあった方が良い気がしますね。休み時間の多いパートですし。
深町: ティンパニよりも打楽器の方が多いかもしれないね。
荻原: そうですね。
荻原: 因みに私の場合は、演奏時は高いじゃないですか。でも休む時にはスーッと下げます(笑)だからこのガススプリング式は非常に静かで素晴らしいです!(笑)
K: 休む時にはいちいち下げてるんですか?
深町: 4拍でも休みがあれば、ね?(笑)
荻原: さすがに4拍では…
深町: (笑)
荻原: お客さんからは不思議がられますけどね(笑)
深町: 音も無く下がるわけだからね(笑)
荻原: 僕はね、こう思うんですよ。中高生の打楽器奏者って、とにかくずっと立ってる(笑)。本番だけじゃなくて、毎日の合奏練習中も。他のパートは座っているのに。そんなところで疲れてる場合じゃないんじゃないかと思うんですよ。そう言う意味でもね、皆椅子を使ったら良いと思いますね。打楽器奏者って、練習する時はなるべく椅子に座って楽にして、余計な所で疲れないようにした方が良いんじゃないかって思いますね。
深町: 確かにそうだね、吹奏楽部で打楽器パートは立ってるのが普通だ、という考えでずっと来ているけど、ルールでも決まりでも何でも無いよね(笑)今日いろいろ紹介したように、僕達プレーヤーは楽器本体やマレットだけじゃなくてこういった椅子にもすごくこだわりを持っていることや、椅子を利用することで奏法や表現の幅が大きく広がることも分かってくれたと思います。KK-G1は単なる椅子のようで、それだけじゃない。奏者のアイデア次第で様々な演奏シーンで使いこなすことができる「新たなツール」だと思って、是非愛用して欲しいですね。
(了)
The Percussionists 〜ご協力いただいた打楽器奏者のお2人
深町浩司(ふかまちこうじ)
愛知県立芸術大学音楽学部・大学院博士前期課程 准教授、サイトウ・キネン・オーケストラ、Ensemble NOVA各メンバー。
長野県出身。武蔵野音楽大学卒業。
打楽器奏者として幅広く活躍すると共に、東京シティフィル、岡山フィル、シエナ・ウインド・オーケストラの客員ティンパニ奏者としても活躍している。ドイツ・ハンブルク音大より招聘を受けレクチャーも行っている。
荻原松美(おぎはらまつみ)
シエナ・ウインド・オーケストラ ティンパニ・打楽器奏者。
長野県出身。国立音楽大学卒業。
「パーカッショングループ・フォニックス」「パーカッショントリオ・ブルートーン」メンバー。長野県小諸高等学校音楽科非常勤講師。尚美ミュージックカレッジ専門学校非常勤講師。